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組織論

「組織論」と一言で言っても、実は様々な要素を含んでいます。
どんな項目かを挙げておくと、

  1. 組織構造。フラット構造vs階層の深い構造など
  2. リーダーシップ。そのスタイルやノウハウなど
  3. 人材育成。教育方法や昇進の考え方など
  4. コミュニケーション。上司と部下の関係など
  5. 採用とリソースプラン。いい人材を適切に

それぞれが重要な要素であり、経営者はすべての状況を把握して、競合他社に勝つための戦略を持っていなければなりません。
「組織論」は、言いかえると「人」を企業活動の中でどうやって効果的に生かすか、ということになると思いますが、今の日本の大企業をみると、本当に「人」を大切にする(全員に甘いという意味ではありません)経営ができているのか、疑問に思うこともあります。

企業活動ですから、企業の方針や戦略が優先されることはやむを得ません。先日、日立がIoT向け営業を全社員の4割弱にするために、2万人規模の人員再配置をするという発表をしましたが、リストラクチャリング(再構築)の名のもとに、適材適所ということと相いれない施策を取られることを目にすることが多くなりました。
企業の側からみたときにこれが是だとしても、社員の側から見たときにそれぞれが一度きりの人生ですから、自分を生かして、経営に貢献する道はないものかと考えるのは当然の権利だし、全員が考えてもらいたいことです。
リーダーシップの観点からも、「人」を最大限に生かすことは重要なテーマです。また、どんなに優秀なカリスマ経営者でも、その成功を支える周囲の「人」があったことは、いろんな成功事例が教えてくれています。

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少し脇道にそれますが、組織構造という意味では、戦国武将たちは合戦で優位な状況を作るために、さまざまな陣形について兵法から学び、考えて実践しています。
言ってみれば、そのときどきに合った陣形で戦っていました。有名なところでは、武田信玄と徳川家康の三方が原の戦いで、信玄は魚鱗の陣(密集した陣形)、家康は鶴翼の陣(横に広がった陣形)をとったと言われています。このときは武田軍の圧勝でしたが、歴史書の中では、すべてが陣形のせいではないものの、鶴翼の陣が敗因のひとつだと言っているものもあります。川中島の戦いでは、逆に信玄が鶴翼の陣、上杉軍は車掛けの陣(密集陣形)を取って、武田軍が思いのほか苦戦を強いられたとも言われています。
戦国時代の戦いの勝敗は、主には兵の数で勝敗が決まるケースが多いものの、桶狭間のように少数が大軍を破るケースもあり、陣形や弱点を突かれて敗れるケース、また、モチベーション(兵の士気)の違いによって一気に勝敗が決するケースもあったようです。
これら、戦国時代の組織論も、企業活動に大いに参考になる部分もあるのかと思います。

企業の組織構造に関しては、欧米企業は比較的フラットな組織が多く意思決定が早いというのに対し、日本企業の傾向は年功序列の弊害もあって深い組織構造で意思決定が遅く、また、昇進が遅くなるため、若い人の活躍のチャンスが欧米よりも少ないと言われます。
こういう問題は古くから指摘されていて、日本の大企業の経営者たちも課題認識はしているのでしょうが、一向に日本企業の意思決定のスピードは上がらないように思えます。
2016年初頭のシャープの一件を見ても、何も決められない日本企業の経営陣が、台湾の一人のカリスマ経営者に手玉に取られているように見えたのは記憶に新しいところです。
これはシャープだけの問題ではなく、日本の多くの大企業で同じような状況がどこにでもあるような気がします。

リーダーシップの問題もいろいろなレベルで議論もされていますが、トップ経営者という点でいうと、シャープとFoxconnの例でように、日本の大企業からカリスマ経営者が出にくくなっていると感じています。もちろん、日本にも素晴らしい経営者はたくさんいますが、特に老舗の大企業からのカリスマ経営者の輩出が少ないような気もしています。

経営者、リーダーシップをどうやって育てるのか。ジャック・ウェルチ(元GEのCEO)は、その著書(ウィニング 勝利の経営)の中で、「選別」して組織で育てることが重要だと言っています。実は、日本企業の中でも(私が知っている限り)、各階層の組織職に後継指名を義務付けて、後継育成を評価対象にするような人事制度を導入し始めていますが、制度以外でもっとも重要な問題は、育成される側の意識の問題だと私は考えています。
実は、これがこのサイトを立ち上げた最大の目的であって、若い人たち(特に私がエンジニア出身なので若いエンジニアの人たち)に、「経営者になってやる!!」という強い想いを持ってもらいたいのです。

旧来型の日本的経営は、近いうちに崩壊すると私は思っています。シャープや東芝がその前兆を示してくれています。もっと大きな背景としては、「マーケティング」のところでも述べていますが、市場環境が劇的に変わろうとしていて、今の経営者たちが考えているよりも早いスピードで、企業と顧客とのあるべき関係が一気に変わって、従来型経営での大企業が、新興企業にとって代わられると思っています。日本でも遅まきながら、起業、スタートアップを支える環境がようやく整い始めてきています。クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」の中で説明した破壊的イノベーションが、今後、各方面で起こってきて既存の大企業がどんどん倒れていく時代が間もなくやってくると思います。
沈みそうな大きな船を修繕して強い船に作り替える側になる(もちろん経営に参画して)か、あるいは、大きな船を見捨てて、小さな強い船に乗り換えるか自分で作るかを考えるか、若い世代の人たちが、今考えなくてはいけないことのような気がします。

話を「組織論」に戻します。
組織構造、リーダーシップ(育成含む)の次に大切なのは、コミュニケーションだと思っています。「ダメな上司を...」「ダメな部下と...」なんていうタイトルの本をよく目にします。どれも言ってることは正しいのでしょう。大きな組織の中には、ダメな上司もダメな部下も(いずれもある人にとっては、ということ)必ずいると思います。
企業活動、特に大企業では、「標準」や「プロセス」をよく制定します。実はこれは、すべての人が優秀ではない前提に立つから必要なのだと、私は思っています。全員がAプレイヤー(優秀という意味)であれば、極端な言い方をすれば、標準もプロセスも不要です。なぜなら、全員が本質を理解して、やるべきことをやるべき手順でやって、必要ならメンバー同士が適切な確認活動(コミュニケーション)を本質に沿ってやるからです。
大企業は、いわゆる大量生産時代で成功した体験に基づいて、だれがやっても同じ品質のものが出来るようなしくみを作ってきました。それが「標準」とか「プロセス」で、人と人の作業のインターフェイス、つまり必要なコミュニケーションまで標準化してしまい、人が考える必要がない状況をたくさん作りだしてしまったわけです。さらに、この20年でオフィス環境は大きく変わって、特に電子メールなどの進歩によって電話すらあまり使わなくなってしまいました。ひどいところでは、隣に座っている人に電子メールで会話をしかけたりします。

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職場の中で大きな声で電話で話したり、大きな声で近くの人たちと議論をしたりするから、だからこの人は今何をやっていて、こんな考え方をしている、というのがわかって、お互いの仕事を結び付けていたのが20年前で、私が知っているある企業のオフィスでは、話し声があまり聞かれず、ひどい人は自分のPCに向かってヘッドホンをしながら仕事をしています。自分の仕事だけと向き合い、他の人とのインターフェイスは標準にのっとった確認作業で、議論は標準に合っているかどうか、あるいは前の仕事と同じか(違うことをしてないか)どうかだけを見ている。だれも本質についての議論をしかけない。
確かに、細分化された仕事を積み上げて一つの成果をだすときに、品質問題を起こす一番の原因はコミュニケーション、つまり一人の人の仕事と他の人の仕事のインターフェイスで勘違いや間違いを起こすことです。人の資質や、そのチームのコミュニケーション力に依存すると、最終品質を管理できないから、マネージメントとしても、依存しないで同じ品質の成果を出し続けたい、と思うのは自然なのかもしれません。
これは、きっと極端に悪い例なのかもしれませんが、これでは、見かけの企業の生産性や品質は上がるかもしれませんが、「人」の品質は絶対に上がりません。
長い間のつけで、企業が衰退していくのは目に見えています。
何より問題なのは、この状況に置かれている当の本人たちが、自分たちが自分たちにとって良くない状況に置かれていると思っていないことだと思います。

人と人のコミュニケーション、本質を考える、間違ってもいいからチャレンジする、そういう環境を作って、失敗も認めることで「人」の質を高め、イノベーションを起こしていくのが、今、日本の大企業がやるべき経営だと私は考えます。

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